顧客の観察・体験・傾聴を通じて初期仮説が立てられたら、次はデプスインタビューで検証する。デプスインタビューとは、調査対象者と1対1で向き合い、本音を引き出す調査手法だ。ゴールは「顧客の部屋の中まで想像できる」レベルの理解に達すること、つまり顧客に憑依することである。
人は建前と本音を使い分けて生きている。初対面のサウンディングでは本音はまず出てこない。継続的に関係を築き、気軽に雑談できる関係になって初めて本音が漏れ出す。インサイトは顕在化したペインやゲインの中ではなく、顧客自身も意識していない領域にこそ潜んでいる。
デプスインタビューで重要な前提は、「何が欲しいですか?」と直接聞かないことだ。潜在的ニーズに取り組むのがイノベーションであり、顧客本人は欲しいものをまだ言語化できていない。顧客の普段の行動・生活パターンを聞き込み、その行動の背後にある価値観や判断基準を推察することで、はじめてインサイトが浮かび上がる。たとえば「新しい家計簿アプリが欲しいですか」と尋ねても本音は出てこないが、「毎月の支出をどう把握していますか」「どんな時に出費が気になりますか」と行動を掘り下げていくと、アプリの機能要望ではなく、家計管理そのものへの漠然とした不安や罪悪感といった、顧客自身もまだ言葉にしていなかった感情が顔をのぞかせることがある。
こうした「聞かない」姿勢は口で言うほど簡単ではない。インタビュアーには沈黙に耐え、相手のペースで語らせる忍耐が要る。次節では、その具体的な進め方として、実際のインタビューの場で守るべき7つのポイントを見ていく。