新規事業のグランドデザインを描く上で不可欠なのは、「事業を評価する客観的な視点」だ。新規事業に取り組んでいると、どうしても「確証バイアス」に陥り、自分の期待や仮説に合致する情報だけを集めてしまう傾向が強まる。これはプロとして数多くの新規事業に取り組んでいる人でも陥ってしまう——情熱を注ぐあまり、批判的な視点やリスクを見逃してしまうのだ。このバイアスを避けるには、意識的に6つの眼を使い分ける習慣が重要となる。
**「人の眼」は起案者自身が腹落ちできるかという確信の視点。データやエビデンスが不十分な中でも、自ら仮説を立てて検証し、その結果に自信を持てるかどうかが成否を分ける。「コウモリの眼」**は顧客・上司・役員など複数の立場から見て矛盾がないかを問う視点だ。イソップ寓話『卑怯なコウモリ』のコウモリは、鳥の前では「羽があるから仲間だ」、獣の前では「歯があるから仲間だ」と都合よく立場を使い分け、最後には両方から見放される。事業も同じだ——一つの立場の評価に満足した瞬間、他の立場から見た矛盾が見えなくなる。
「鳥の眼」は事業全体の戦略を俯瞰する視座の高さだ。今取り組んでいることがドミノの1ピース目として適切か、次のピースへどうつながるかを問う。Amazonが書籍という一点からフライホイールモデルへと発展させたように、時間が経つほど強固になる設計を描けているかが鍵になる。「虫の眼」は顧客・市場・競合・法規制への深い理解であり、社内の誰よりもテーマ領域に精通していることが求められる。BtoBtoC事業では、目先のKPIを追ううちに本来幸せにすべきtoCを見失い、パートナーであるtoBの御用聞きに成り下がる。業務効率化を狙ったSaaS開発が、気づけば個社ごとの受託開発に堕ちていく——虫の眼を曇らせる典型例だ。
**「医者の眼」は第三者のメンターによるメタ認知であり、プロのコーチをつけることで失敗確率を下げる。「魚の眼」**は「なぜ今取り組むべきか」というタイミングの視点だ。6つの眼は、揃えた瞬間に完成するものではない。定期的に持ち替えてこそ効く。筆者はメガベンチャーで新規事業に挑戦していた頃、担当役員のスケジュールを事前に調べ、会議と会議の合間、廊下で待ち伏せするのが日課だった。ドアが開いて役員が出てくる、その数秒の隙にエレベーターホールまで並んで歩きながら要点を1〜2分で話す。「これはいい」「ここがダメだ」——立ち止まって話す時間などなくても、理由付きの答えはその場でもらえた。現場の若手が直接尋ねても、嫌がる経営層はほとんどいない。悪魔のささやきに惑わされないよう、グランドデザインを軸に定期的に立ち返ろう。