近年「顧客インタビューを起点に事業を創る」というアプローチが定着しつつある。しかしここには盲点がある。顧客が語るのは往々にして彼ら彼女らが既に認識している課題——つまり現在の延長線上にあるものだ。フォードが顧客の声に完全に依存していたなら、馬の品種改良に全力を注ぎ、自動車という革新的なアイデアには至らなかっただろう。「もっと速い馬が欲しい」という声の先にある、「A地点からB地点へ高速かつ安全でリーズナブルに移動したい」という本質的な欲求を掴んだからこそ、イノベーションが生まれた。
「エフェクチュエーション」(手持ちのリソースを基に前進する手法)も同様の落とし穴を持つ。目指すべき未来を明確に定めず手段だけで進むと、得られるのは限られた可能性の未来に過ぎない。大切なのは「コーゼーション」——最終的なビジョンを見据え、それを基軸に逆算することで、ゴールまでの道筋をブレなくする思考法だ。
定期的にビジョンから逆引きして軌道修正することが、特に不確実性の高い事業環境において重要になる。判断に迷ったとき、顧客インタビューの解釈に悩んだとき——常にビジョンに立ち返ることで、イノベーションに向かう一歩一歩を確実に踏み出すことができる。